22:もう、大丈夫

「みんな、いくぞ!」

 その言葉で、わたしたちとロケット団の戦いが始まった。

「ミュウの噂を聞きつけたトレーナーか!」
「その通りだよ! あなたたちもか!?」
「ふ、俺たちが流したんだよ! ミュウツーを誘き寄せるためにな!」
「なんだって? ……ヒイロ、はじけるほのお!」

 ロケット団のマタドガスやアーボックをリザードンのヒイロが焼き払う。

「ミュウツーは最強のポケモン、あんたらみたいな世界制服を望む連中にはよだれが出るほど欲しいポケモンってとこか? ポリゴン、トライアタック!」

 カズくんのポリゴンがヒイロの撃ち漏らしたポケモンを倒して行く。

「なにそれ! いい迷惑じゃない! あなたたちポケモンをなんだと思ってるわけ!? キャリロン、メロメロ!」

 リコのキャリロンが雄のポケモンたちを行動不能にする。エネコロロに進化したんだ。

「そういうの許さない! ミュウツーはわたしたちで守る! ソーヤ、でんこうせっか!」
『うん! いっくよー!』

 そしてわたしのイーブイ、ソーヤが動けなくなったポケモンたちを突き飛ばして行った。

「二人とも! 最後はあれで決めないか?」
「お、いいねー!」
「いいだろう、乗ってやる」

 なになに? わたしだけ仲間はずれ?

「まあ、ルナは見ててよ! 行くよ、ヒイロ!」

 するとアッシュがリザードンを。

「出ておいで! ベッケン!」

 リコがカメックスを。

「フシギバナ、出番だ!」

 カズくんがフシギバナをくりだした。

「これで決める!  だいもんじ!」
「行くよ! ハイドロポンプ!」
「全てを込めろ! ソーラービーム!」

 三体の最大攻撃。
 よーし、わたしたちも続かなきゃ!

「リッカ! お願い!」
『OK! 任されたわ!」
「リッカ、かみなり!」

 炎、水、草、電気。
 四つのエネルギーが混ざり合い、巨大な力となってロケット団を薙ぎ払う。

「あいつら、強いぞ!」
「ミュウツーのほうはどうだ!?」

 そのとき、爆発が起こりミュウツーを囲んでいたロケット団が弾き飛ばされた。

『この程度で私を捕まえようなど!』

 あっちも無事みたい。
 心配無用って感じかも。

「すごーい……」
「さすが最強のポケモンだな……」

 そのとき、ロケット団の新手が現れて、再び戦場は敵が盛り返してきた。
 敵の数が多いってそれだけで不利になるのね。
 その中に、知った顔を見つけてわたしは声を上げる。

「マコトくん!」
「ルナ、またあんたか!」
「マコトくん、あんなことして本当にいいと思っているの!?」
「ミュウツーは俺たちの計画に必要なポケモンだ。絶対に連れて行く!」
「違う、過去からポケモンを未来へ連れて行くって計画のことだよ!」

 思わず、口から出ていた。
 止めたいという思いが、強く出てしまってた。

「なにそれ? ルナ、どういうことよ」
「馬鹿な、タイムトラベルはまだ出来ないはずだぞ」
「ルナ……」

 みんなは口々に、わたしの言葉に対する驚きを口にする。
 アッシュだけは、何か言いたそうにして、だけど留まったようだった。

「何故それを知っているんだ!」
「それは……」

 ここで本当のことを言えば、みんなにわたしのことがバレる。
 そしたら、みんなは同じように接してくれるだろうか?
 そんな不安がよぎった。
 だがそんな不安よりも、もっと大きな問題がわたしに降りかかって来た。

「ルナ? ちょっとなんであなたがここにいるのよ!?」
「ニーナちゃん……? ニーナちゃんこそなんでロケット団なんかにいるのよ!」

 幼馴染が、ロケット団の中にいた。

——————

 ニーナちゃんが、ロケット団の一員として目の前にいる。
 そのことがショックだったのか、わたしは足がふらついてしまった。
 それを、ミュウツーが支えてくれる。

『大丈夫か』
「う、うん。びっくりしただけ。ありがとう、ミュウツー」
「ルナ、きみは……」
「絶対に、絶対に話すから。だから今は聞かないで」
「……わかったよ」

 アッシュはそう答えるとロケットを見据える。
 リコとカズくんはなにも言わなかった。
 覚悟を決める日が、来たのかもしれない。

「ニーナ、知り合いなのか?」
「幼馴染です。でもなんで過去にいるの……?」

 今はわたしにできることを。
 ギュッと手を結び、ロケット団と対峙する。

「ルナ、なんでここにいるの。貴方がいなくなって真白町は結構な騒ぎになったのよ?」
「それを言ったらニーナちゃんは? それにマコトくんも、あの放送に出てたってことは未来から来たんでしょ?」

 少なくともわたしやニーナちゃんがいた未来のことを知っているはずだ。

「俺たちは選ばれたんだ。世界を救うための先鋭に!」
「そうよ! ポケモンがいなくちゃ世界に未来はないって、ルナも放送を聞いたでしょ!」

 聞いた。確かに聞いたよ。
 でも、何かがわたしの中で引っかかってる。

「それならポケモンが姿を消した理由を探ったほうがいいじゃない! なんでわざわざ過去から未来へ連れて行くの! それがどれだけ怖いことかわかってる!?」
「怖い? なにが怖いのよ、貴方が怖がることなんてなにもないわ!」

 怖がることなんてない。
 その言葉にわたしの感情が爆発した。

「怖いよ! いきなり知らない場所に連れて来られて、しかもそこから帰る方法もわからなくて! どこにも自分を知る人がいない、それがどんなに怖いことか、ニーナちゃんはわかってない!」
「なにを言って……!」

 怖かった。わたしは突然この時代にきて怖かった。
 優しい人たちのお陰で助かったけれど、この怖さは忘れられない。

「だいたい、ロケット団に協力している……悪いことをしていないって言うなら、奴らと手を組む必要なんてないじゃない!」
「それは……」
「そんなことどうでもいいでしょ! ルナ、わたしと帰ろう!」
「どうでもいい? どうでもよくないよ! 彼らのせいでどれだけの人が、ポケモンが傷付いたと思ってるの!?」

 クチバシティの出来事が頭をよぎる。
 あんなことをする集団なんて、信用できない!

「全く、さっきから聞いてれば好き勝手言って!」
「じゃあ言い返してみなよ!」
『ルナ、落ち着いて!ルナらしくないよ!』

 ソーヤに言われてもわたしの心は荒れたままだ。
 なんとか落ち着こうと深呼吸をする。

「ここは僕たちの時代だ! ルナの知り合いとはいえ、ここで悪事を働くっていうなら容赦はしないよ!」
「ルナが言ってることが本当なら、貴方たちがやろうとしてることって誘拐みたいなものじゃん! そんなことさせるわけにはいかないわね!」
「詳しい話は知らんが……お前たちのやろうとしていることは気に入らないな!」

 わたしたちの言い争いに黙っていられなくなったんだろう。
 みんなが口々に声を上げる。

「この時代の人間には関係ないことだ! それに誘拐? お前達トレーナーだってやっていることだろう!」
「違うな! 人がポケモンを捕まえるんじゃなくてmポケモンがトレーナーを選んでくれるんだ! バトルするのはそのポケモンに認めてもらうためなんだ!」
「マコト、これ以上邪魔されるのは……」
「仕方ない、捕まえてからと思っていたがあれを使うしかない! 準備しろ!」

 すると大勢のロケット団が何かを連れてくる。
 布が外されると、そこに現れたのは巨大な機械だった。
 灰色で無骨で、真ん中には何かを発射するような口が付いている。

「ダーク化装置、起動!」
「ダーク化装置、起動」

 マコトくんの言葉をロケット団が言葉を復唱する。
 ダーク化装置って、まさか!

「ダメだよニーナちゃん、マコトくん! それは使っちゃいけない!」

 わたしの叫びは届かずに、無情にもそれは動き出す。
 止めなくちゃ、そうわかっているのに体が動かない。

「狙い……ミュウツー! 発射!」
「発射!」

 いつか見た、黒い光線が機械から放たれる。
 そして……

『う、うおおおおおおおお!!!???』

 ミュウツーを包み込んだ。

「くっ……! 一体なんなんだ……!?」
「そうだ、ミュウツーは!?」

 わたしはハッとして彼を探すと、彼は光線に当たる前と同じ場所に佇んでいた。
 その姿に安心するが、すぐに雰囲気が違うことに気付く。

「今のうちに退散するぞ!」
「でもルナが!」
「彼女のことは後だ! このままだと俺たちも巻き込まれる!」

 マコトくんに急かされ、ニーナちゃんはわたしを力強い目で見る。

「ルナ……必ず連れ戻すから! 待ってて!」

 そう言い残すと彼女たちは何処かへと消えて行ってしまった。
 残されたのはわたしたちと、ミュウツー。
 何故ロケット団は引いていったのだろうか。

「ミュウツー? 大丈夫なの?」
『……倒す』
「ちょっ! 何するの、ミュウツー! ロケット団はもういないのよ!」

 リコの言葉に答えず、ミュウツーはシャドーボールを辺りに乱射し始めた。
 黒いオーラが彼を包んでいる。恐ろしく、悲しいオーラ。

「あのフワンテと一緒?じゃあやっぱりあの装置は!」

 名前の通り、ポケモンをダーク化する装置!
 ミュウツーは闇に飲まれてしまったの?
 ロケット団がこうなることがわかっていたから引いたんだ!

「ダーク化なんて、なんでそんなこと、なんで……?」
「そんなことを言っている場合じゃない。今考えるべきはあいつをどう止めるかだろ」
「フワンテと一緒なら、ルナ、君の力なら助けられるんじゃないか?」
「そうね!フワンテは助かったんだもの!ミュウツーだって!」
「……わからないけど、やってみる。ミュウツーのこと、助けたいもの」

 わたしの力がまた通用するかはわからないけど、やるだけやってみなきゃ。
 森の神様、わたしに力を貸して。

「まずは動きを止めるぞ。フシギバナ、つるのムチ!」
「あたしも!キャリロン、うたう!」

 二人の妨害を物ともせず、ミュウツーは周りを破壊する。
 安全策をとってる場合じゃない。シャドーボールとはどうだんが飛び交うフィールドを、わたしは間を縫ってミュウツーに駆け寄った。
 しかし、躱しきれなかったはどうだんがわたしに迫る。

「ヒイロ、かえんほうしゃ!」
「アッシュ!」
「ルナ、こっちは任せて!」
「うん!」

 わたしには仲間がいる。
 だから、前に進める!

「ミュウツー、落ち着いて!」

 わたしは彼に抱きついて、落ち着くように伝えた。
 だが、彼は暴れる。何かに苦しむように。
 なんとかしてそれを和らげてあげたいのに、あのときのような光は現れない。

「わたしに力があるなら……今使わなくてどうするの!」

 わたしの叫びに反応するかのように、わたしの中で何かが目覚める音がした。
 イケる。そう確信した。
 すると、ソーヤが近付いてきてミュウツーに頭をくっつける。

『ツー! 大丈夫だよ! 戻ってきて!』
「ミュウツー、あんな機械に負けないで!」

 ソーヤの言葉、わたしのことば。
 願いが届いたのか、ペンダントから光が溢れて辺りを包み込む。
 優しいエネルギーがわたしの心を強くする。ミュウツーの闇を祓う。

「戻ってきて、ミュウツー!」
『私は! 私はああああああ!!』

 やがて光は止み、そこに残ったのはダーク化の呪縛から抜け出したミュウツーと、彼を抱き締めるわたしとソーヤだった。

「もう、大丈夫」

 閉じられたミュウツーの目から、涙が流れた。

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