その名の通り、ここには前に来たときと同じ色の世界が広がっていた。
『ルナー!ソーヤ!早くー!』
『リッカ、待ってよー!』
リッカは久し振りの故郷でテンションが高い。森の仲間に会いたくて仕方ないんだろう。
今日はここでゆっくり過ごしてもいいかもしれないなあ。
こちらを覗いているポケモンたちに手を振る。するとニコッと笑って走り去った。方角的にあの広場かな。
きっとそこに長老様もいるだろう。
「はあー、落ち着くねー。リッカ、ソーヤ。そろそろお昼にしようか」
『先に長老様に会わなくていいの?』
「うーん、ゆっくり話したいし、それに今からだとお昼の時間逃しちゃうよ。だから、先食べましょ!」
森のみんなとお昼を一緒に食べながらお話でもいいけれど、御茶請けのお菓子は別に用意しているし。
だからお昼ごはんは先に。
そのとき、ちょうどよくお弁当が広げられそうな場所に出た。
『わーいお昼ー!今日のお昼はなーに?』
「今日はイッシュにあるサンドイッチ屋さんのメニューを真似して作った、ビレッジサンドでーす!」
クラボにモモン、チーゴにナナシ。いろんなきのみを野菜と一緒に挟んだサンドイッチ。
いつか本家のも食べてみたいな。
『あたしクラボのいただきー!』
『ぼくモモンー!』
我先にと好きなきのみが挟まれたサンドイッチをとっていく。
わたしはナナシのみを使ったサンドイッチを取り口に運ぶ。
うん、我ながら上手に出来た。
『いただきまーす!』
膝の上にいるソーヤが食べやすいように、片手でサンドイッチを支えてあげる。
大きく空いた口にそれは入る、はずだった。
『あーん!………あれ?』
『ソーヤ、一口で食べちゃったの?』
『違うよ!ぼくのサンドイッチ消えちゃった!』
そう、消えたのだ。
確かに持っていたのに!
『おいしー!お姉ちゃんいつもこんな美味しいの食べてるの?ずるーい!』
『ピチュー!』
『あー!ぼくのサンドイッチ!』
犯人はすぐに見つかった。
近くの木の上に、サンドイッチを持ったピチューがいたのだ。
『ねえねえトレーナーさん、もっとちょうだい?』
降りてきてわたしにおねだりをする。
う、かわいい。
うるうるの目で上目遣いだなんて卑怯だ!
「しょーがない、食べて!」
『ってダメに決まってるでしょ!ルナもOK出さない!』
ごめんなさい。
ピチューはほっぺたを膨らませ口を尖らせている。
『全く……相変わらず食い意地が張ってるんだから……』
『いーじゃん!美味しい物は正義!』
『太るよ』
そんな調子でリッカとそのピチューは言い争いを続けていた。
その間にわたしは泣いているソーヤに新しいサンドイッチを与える。すると泣き顔から笑顔になってサンドイッチをぱくついた。
「リッカ……とりあえずその子紹介して?」
『あたしの愚妹よ。とにかく食べることが好きなの。お陰でおデブさんになっちゃって……』
言われてみれば、ちょっぴり太め。それも可愛いからいいと思うんだけど……
『あたしもそう思ってたわ。乗ってた枝が折れるのを見るまでは』
『あれは枝が細かっただけだよー!』
枝が折れるほどの重さ……
このピチュー、見た目以上に重いのか。抱っこしたかったけどやめておこうかな。
『わたしを抱っこしたいならお菓子か何かちょーだい!』
うん、やめよう。
『ねーねー、ピチューはいたずら好き?』
『大好きよ!お姉ちゃんほどじゃないけどね!』
『へえー!どんないたずらしてるの?教えて、教えて!』
『じゃあねー、前にここを通ったトレーナーを驚かしたのを教えてあげようかな!』
『わーい!』
ソーヤはピチューに話をせがんでいる。
そう言えばリッカからもよくいたずらの話を聞いているし、そう言う話が好きなのかな?
『ルナ、止めなくていいのか?ソーヤがいたずら好きになってしまったらどうするのだ』
するとセンがわたしにそう言ってきた。
うーん、確かに困るだろうけど……
「元気があっていいじゃない。それにセンもいたずらするの、嫌いじゃないでしょ?」
『それは……その通りだが』
「大丈夫だよ。度が過ぎたものをしようとしてるなら止めればいいし、そのときは叱ればいい。そうでしょう?」
『……そうだな』
そう呟き、センは優しげな目でソーヤたちを眺める。
センはどの時代でもセンなんだなあ。それを見て思わず思った。
わたしたちはこのまま、穏やかな時間を過ごすはずだった。
突如、爆発音が森に鳴り響いたのだ。
なにが起こったの!?
『広場のほうだ!』
「みんな!行くよ!」
『ああ!待ってー!わたしは走るの遅いのー!』
『しっかりしなさいよ、ピチュー!』
急いで広場に、あの日長老と会ったその場所に駆ける。
たどり着き目に飛び込んできたのは、長老をはじめとしたポケモンたちが檻に捕まっている光景だった。
白い制服を見にまとった二人組、この人たちが犯人だろう。
「一体誰!?」
わたしは声を上げる。みんなになにをするの!
「一体誰!?って言われたら」
「答えてあげるが世の情け」
「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の悪を貫く」
「ラブリーチャーミーな敵役」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「銀河を駆けるロケット団の二人には!」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」
「ニャーんてニャ!」
ロケット団だって!?
「この森に何の用……!みんなを解放して!」
「へーん、やなこった!」
「こーんな貴重なポケモンがいっぱいいるところ、ニャーたちがほっておく訳がないのニャ!」
「きちんと任務をこなして、しかもポケモンを大量ゲット!」
「「「幹部昇進、給料アップいい感じー!」」」
何言ってんのこの人たち。
そんな簡単に幹部になれるわけないじゃん。
「ついでにお前のポケモンもいただくニャー!」
すると森の奥からニャースを模したメカが飛び出して来た。
あれ、ロケット団が作ったの?
「なあ!色違いのイーブイなんてレアじゃないか!」
「サカキ様もきっと喜ばれるに違いないわ!ニャース、やっちゃって!」
「わかってるニャ!ほれポチッとニャ」
するとメカからいくつものアームがわたしたちのほうに伸びてきた。
いけない!
「捕まっちゃう!逃げて!」
わたしの声でみんなはバラバラに散る。
アームはそれぞれを追うがみんな小さいからかなかなか捕まらない。
でも時間の問題だろう。今のうちにいい方法を考えなきゃ!
『あー、もう!しつこい!』
そう言ってリッカは電撃を浴びせる。
リッカの攻撃なら壊せる、そう思った。
しかし、電撃はメカのツノに吸い込まれた。ええ、どうして!
「へっへーん!効きませんよーっだ!」
「お前たちの放った電気は我々のメカの動力になるのだ!」
「いつも追いかけているジャリボーイのおかげで電気対策はバッチリニャ!」
避雷針か!それじゃあ電気は通用しないって考えた方がいいいかな。
『わーん!ルナー!助けてー!』
『くっ!離さんか!』
「ソーヤ!セン!」
二人とも捕まっちゃった!
助けなきゃ、でもどうしたら……!
『お姉ちゃん、わたし、もう、無理』
『ピチュー!』
体力のないピチューにアームが迫る。
助けなきゃいけないのに他のアームが邪魔をして側に寄れない。
アームがピチューを捕らえようとしたとき、ニヤリと笑う口が見えた。
『引っかかった!これでも喰らえー!』
そう言ってピチューは何かを投げる。
それはアームに当たると爆発した。
一体なにを投げたのよ!
「ピチュー、それは一体……」
『タネ爆弾をきのみに埋め込んだものだよ!これ喰らうと痛いしびちゃびちゃだしで二重のダメージが与えられるの!』
「……人に向かって使ってないよね」
『ピチュぺろ☆』
使ったのか。
それにしても爆発するきのみか……うん、ひらめいた!
「ねえ、それってまだある?」
『あるけど……どうするの?』
「それは−−ってするの」
『あたし乗った!ピチュー、やるわよ!』
『あー!お姉ちゃん待ってよー!』
リッカとピチューは駆け出す。
わたしもピチューからもらったきのみを持ち、行動を開始した。
「うまくいくといいけど……ううん、いかせなきゃ!」
わたしは大きく振りかぶってきのみを投げる。
それはまっすぐ避雷針に飛んでいき爆発した。
トレーナーの投擲技術舐めるなよ!
「ぎゃー!ツノが折れてしまったニャ!?」
「どうするのよニャース!これじゃあ!」
「二人とも前!前!」
「なに?……あ」
「なんなのニャ?……これはヤバイのニャ」
彼らの目線の先、そこには二匹の電気ネズミはメカにぴとっとくっ付いていた。
わたしからは見えないけど、二人ともいい笑顔をしているんだろうなあ。
『ピチュー!』
『わかった、お姉ちゃん!』
『十万ボルト!』
『電気ショック』
二匹の攻撃でメカは半壊。
アームも壊れてソーヤとセンが解放される。
「ソーヤ!セン!大丈夫?」
『大丈夫だよ!』
『この通りだ』
メカが小さな爆発をしてぽーんと何かが飛び出してきた。
「これ、檻のスイッチ?ふーん……こうしちゃえ!」
「ニャ、ニャんてことを!」
ばこんっと音を立ててスイッチはわたしの足の下で潰れた。
はー、スッキリした。
檻も壊れ、長老たちが抜け出す。
『ルナ、気を抜くな。奴らはまだ動ける』
「うん、わかってる。みんな、あいつらを森から追い出すよ!」
わたしたちだけじゃなく森のポケモンたちも臨戦態勢で、ロケット団は追い込まれた。
形勢逆転だ。
「せ、せめて任務だけは成功させるわよ!」
「おう!よーし、いくぜ!」
メカは煙を上げながら動き出す。
なにをするつもりなの!?
わたしはメカがこちらに向かってくるの思って、身構える。
しかし、それは方向転換をして後ろへと走っていく。
逃げるつもりだろうか。
『いかん!彼奴等は祠を狙っておる!』
長老が声を荒上げる。
祠を!?
あれはここのポケモンたちがずっと守ってきたものだ、守らなきゃ!
「リッカ、十万ボルト!セン、火炎放射!」
『いっけぇぇぇ!』
『覚悟するがいい!』
協力な電気と炎がメカを襲う。
流石にもう攻撃に耐えられなくなってメカは完全に動きを止めた。
髪がパーマをかけたように頭が爆発したロケット団がメカから出てくる。
よし、トドメだ!
「ソーヤ!電光石火!」
『それっ!!!!』
最後の攻撃で彼らはメカまで吹っ飛び、その衝撃でメカは爆発。
漫画やアニメのように彼らは飛んでいく。
「あーん!なんでこうなるのよー!」
「それにしてもまたピカチュウかー」
「黄色いネズミが関わると毎回これだニャ……」
「「「やなかんじーーー!!!」」」
そうしてロケット団は空へと消えた。
『やったねお姉ちゃん!』
『あったり前でしょ!あたしにかかればこんなものよ!どう、セン?あたしが一番すごいでしょ?』
『私も捕まってしまった分は働いたと思うぞ』
『ぼくも!ぼくもがんばったよ!』
『でも一番の活躍はあたしだもーん』
勝利に盛り上がる広場。
わたしはその中でロケット団がなにをしようとしていたのか考えていた。
「ロケット団は何故祠をどうしようとしていたのでしょう?」
『うーむ、祠に危害を与えることでセレビィを呼び出そうとしたのかもしれないのう』
「セレビィを?」
ロケット団がセレビィを欲しがっている?
どうしてまた。時渡りの力が欲しいのなら、彼らにはタイムマシンがあるじゃないか。
『世界のあちこちにあるこの祠は、セレビィたちの住む世界樹に繋がっていると言われている』
「世界樹……ってなんですか?」
『時間と空間の狭間にあると言われる巨大な樹じゃ。セレビィたちはそこで情報のやり取りや休憩をしていると言われている』
儂も本物は見たことはないがなと、長老は笑う。
セレビィの住む大樹、世界樹。
いったいどんな場所なのだろう。
『セレビィは普段は単体で動いているポケモンじゃ。だが一匹のセレビィになにか起こったときにすぐ他のセレビィたちが駆けつけて助け合って生きている。それは世界樹を通じてセレビィたちが繋がっているからなのじゃ。それだけではない。世界樹は時の神であるディアルガの下に通じているとも言われている、聖域なのじゃよ』
「今回はかなり、饒舌ですね」
前の時は何も教えてくれなかったのに。
今なら答えてくれるだろうか。
セレビィのこと、わたしのこと、センのこと。
『貴女は知らなければならないことを知り、そして知るためにここに来た。そうじゃろう?』
そう言うってことは、わたしはもっと知らなくてはいけないことがあるのだろう。
知りたいことも、知りたくないことも。
『さて、時渡りの巫女よ、なにが知りたいかな?』