瞳の輝き

「アマネ! おい、アマネってば!」

 穏やかな森の中で少年の声が響く。

「いい加減に起きろよ、アマネ!」

 ゴンッ!

「いったあ!」

 トウカの森に重たい音と悲鳴が響く。
 少女は頭をさすって、殴った相手を見た。

「もー、なにするのシュウジ!」
「何するもなにも、お前が約束の時間になっても来ないのが悪いんだろう? 起こしても起きないしさー」

 むすっとした表情の彼を見て、少し反省したようだ。
 しかしそれでも、不満そうな顔をしている。

「それにしても、リーグ悔しかったなー。でもベスト4に入れたからいいのか?」
「わたしはベスト8。でも悔しいものは悔しいよ。シュウジたちなんてメガシンカまで身に付けて挑戦したのにねー」

 シュウジのメガバングルがキラリと光る。
 メガシンカ使い。それは強者の証とも言えた。

「おれの場合使わずに挑戦が終わったけど。それに他のにもメガ使いがいたからな」
「ミシロの男の子と女の子、それにトウカの男の子でしょ? 凄かったよねー決勝戦」
「ユウキとミツル、だっけ? 熱いバトルだったな」

 一進一退の戦いは、最後はメガシンカ同士の対決になった。
 それぞれ出したのは、彼らの最初のパートナーであろうメガジュカインとメガエルレイド。
 勝ったのは……ミシロタウンのユウキ。彼が今回の優勝者だ。

「なんか格の違いを見せ付けられた気がするよなー。あのユウキって奴、この間の異常気象を止めたらしいじゃん?」
「……でも、いつかは勝ちたいよね」
「ああ。勝ちたい。いや、勝つ!」

 そう宣言するシュウジは、キラキラしたものを持っているよう少女には見えた。
 しかし、その少女、アマネだってトレーナーである。負けてはいられないという思いもあった。

「それじゃあ、始めようか!」
「おう! 待っていたぜ!」

 そう言って、二人は互いに距離を取る。

「ルールはいつも通り三体三の入れ替え戦! 一体でも倒れたらそこで終了!」
「道具の使用は無し! 持たせるのはOK!」

 アマネの心は熱く燃えている。この高揚感は他じゃ得られないとも感じている。

「行くよ! シュウジ!」
「来い! アマネ!」

「「バトルスタート!」」

 二人同時に手からボールを放つ。
 それぞれからは、赤い模様の入った兎と、黒い狼が現れた。

「先手必勝!シャルナク、ほうでん!」
「タルヴォス、躱してかみくだく!」

 アマネの赤い模様の兎……プラスル……シャルナクが辺り一面にこれでもかと電撃を放つ。
 しかしシュウジの黒い狼……グラエナ……タルヴォスは僅かな隙間を縫うように駆けた。
 赤い模様の兎に比べ大きな黒い狼が、口を開けて迫る。

「シャルナク、フラッシュで目くらまし!」
「げっ!?」

 グラエナが噛みつこうとした瞬間、プラスルが強烈な光を放つ。それに怯み、狼は攻撃を止めてしまった。
 そして、アマネはその瞬間を逃すようなトレーナーではない。

「スピードスター!」

 プラスルは至近距離から星型のエネルギー体を放った。
 正面から受けてしまったグラエナは自身のトレーナーの近くまで弾き飛ばされてしまった。

「タルヴォス! ……まだいけるな?」

 シュウジの言葉にグラエナは尻尾を一振りして応える。
 その様子にシュウジは笑うとまっすぐ敵を指差し指示を出した。

「行くぜ! どくどくのきば!」
「迎え討つよ! かみなり!」

 駆け出すグラエナ、その動きを見定めようとするプラスル。
 プラスルは狙いを定め巨大な電撃を放った。
 それをギリギリで躱し、グラエナは噛み付く。
 電撃で抵抗するとすぐに解放されたが、プラスルの顔色は悪い。

「猛毒状態だ。引いたほうがいいんじゃないか?」
「そうね……ありがと、シャルナク。お疲れ様」

 アマネはプラスルをボールに戻し、考える。
 相手のポケモンをどう倒せばいいのかを。

「よし、ここは一気に攻める! カリュケ!」

 飛び出してきたのは緑のドラゴン。菱形の翼と目を覆う赤いレンズが特徴的である。
 その名を、フライゴンという。アマネの最初のパートナーであり、切り札だ。

「最初から飛ばすよ! カリュケ、りゅうせいぐん!」
「っていきなりかよ!」

 呼び出された隕石が全てグラエナへと向かっていった。
 りゅうせいぐん。ドラゴンタイプの技の中では最強クラスの技だ。アマネはルネシティのとある人物に頼み込み、教えてもらっていた。

「タルヴォス、躱せ! いや、防御だ!」

 躱すことができないと判断したシュウジは、耐えるように指示を出す。強烈な攻撃がグラエナを襲う。
 技が収まったときには、グラエナはボロボロだった。
 しかしまだ、倒れない。

「済まない、タルヴォス。戻ってくれ」

 シュウジはトドメを刺されないうちに、ボールに戻す。
 彼の残りは二体。しかし、一体は電気タイプで地面タイプを持つフライゴンに対して使える技が少ない。

「それなら、こっちも切り札だ! いけ! ガラテア!」

 瞬時に判断し、彼は青い体に赤い翼を持ったポケモン、ボーマンダを繰り出した。
 そして腕のリングを光らせながら、左腕を天にかざした。

「ガラテア、メガシンカだ!」

 光がボーマンダを包み、姿を変える。
 光を破って現れたメガボーマンダは、相手のフライゴンを睨み付け臨戦態勢に入る。

「メガシンカなんてずるいよー」
「勝つためにできることはなんでもやる! それがトレーナーだろ!」
「それはそーだけどー」

 文句を垂れるアマネに対して、シュウジはさも当然と答えた。
 それでも彼女は納得してないようだ。
 それはそうだろう、アマネはメガリングは持っているが、メガシンカできるポケモンも、メガストーンも持っていない。
 仲良くなったポケモンと強くなりたいと思っている彼女は、このポケモンを捕まえたいという思いがあまりなかった。
 しかし、このままでは宝の持ち腐れだ。いい加減になにかしら捕まえるべきかと彼女は思案した。

「うーん、でもせっかくなら一緒にいて楽しい子がいいよね。それに、メガシンカ出来なくても強いってことを証明すればいいんだから!」
「それでこそアマネ! おれのライバル!」

 結局いつも通りのスタンスでいようと決めた彼女の姿に、シュウジはうんうんとうなづく。
 強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。何処かの四天王も言っていた。
 勝つためにポケモンを揃えるなんて、アマネらしくない。

「よし、いくぜ! りゅうのまい!」

 まずは雄々しい舞で素早さと攻撃を上げる。
 ただ勢いに任せて攻撃するだけではない。特性も補助技も、うまく取り入れて戦う。それがシュウジのスタイルだ。

「ガラテア、すてみタックルだ!」
「躱して!」
 アマネは躱すように指示を出すが、メガシンカ、そしてりゅうのまいで素早くなったボーマンダの攻撃はそれよりも先に当たる。

「カリュケ!」

 特性、スカイスキンによってタイプ一致技になったすてみタックル。細身の体にその一撃は重く、フライゴンはふらついた。
 しかしまだ余裕がありそうだ。

「こっちだって負けないんだから! ストーンエッジ!」

 それを見て、アマネは攻撃に転ずる。
 使うのはストーンエッジ。急所に当たりやすく飛行タイプに対して効果はバツグンの技だが、岩タイプの技の多くは命中率が低い。
 フライゴンの放ったそれも躱されてしまった。

「もう一度すてみタックルだ!」

 その言葉を聞いて、メガボーマンダは再び勢い良く向かってくる。
 それに対してアマネは 閃いたように指示を出した。


「それなら! とんぼがえり!」

 突進してくる自分に向かってくることに驚いて、メガボーマンダは止まってしまう。
 フライゴンはそのまま一撃を与えるとボールに戻って次のポケモンへと入れ替わる。
 出てきたのは青い鞠のような鯨だった。ホエルコである。

「ベリンダ、ハイドロポンプ!」

 ホエルコは大量の水を発射して、メガボーマンダを狙い打つ。
 しかし、それは避けられて辺りが水で濡れた。

「よし、ドラゴンクローだ!」
「かかった! ベリンダ、うずしおで動きを止めて!」
「ガラテア、逃げろ!」

 ハイドロポンプで広がった水を巻き上げて、渦がメガボーマンダを閉じ込めんとする。
 シュウジは逃げるように指示を出したが間に合わず、青いドラゴンは渦にとらわれてしまった。
 メガボーマンダはなんとか渦を打ち破ろうと炎を吐くが効果はない。

「渦……そうだ、ガラテア、上だ! 上は空いている!」

 シュウジがそのことに気付き、新しく指示を出す。
 しかしそれは罠だった。

「ベリンダ、戻って! カリュケ!」

 再びフライゴンを出し、渦の上へと向かわせる。

「ガラテア! そのまま突っ切れ! すてみタックル!」
「無駄だよ! りゅうせいぐん!」

 フライゴンに対して突進を仕掛けたメガボーマンダに隕石が当たった。
 捨て身の攻撃は届かず、メガシンカも解け、ドシンと重い音を響かせボーマンダは地面に落ちる。

「ガラテア!」

 シュウジが駆け寄ると、弱々しくボーマンダは鳴いた。

「カリュケ、お疲れさま。……今回はあたしの勝ちね、シュウジ!」
「ああ、負けたよ。くっそー、悔しい!」

 二人は戦ってくれたポケモンに感謝を伝えて、ボールに戻す。
 シュウジはその場に倒れ込み空を見上げた。
 アマネはその隣に腰掛ける。
 バトルで火照った体に風が気持ちいい。彼女はそう感じた。

「ねえ」
「なんだ?」

 ふいに、アマネが口を開く。

「リーグも終わったし、別の地方に行ってみない?」
「別の地方?」
「きっと楽しいよ!新しい出会いも沢山あるだろうし!」
「いいかもな!」

 彼女の提案に、シュウジは笑ってそう返す。
 その瞳は既に新しい冒険へと向けられていた。
 その輝きに、アマネは引き込まれそうになりながら、自身も別の地方へと気持ちを向かわせる。



 後日、どこかへと旅立つ二人の姿がカイナの港にあった。
 二人の新しい旅が、始まろうとしている。

ページトップへ
サイトトップへ